事例紹介

【法人・事業主のお客様】労働問題・労務管理

創業者の相続人から、会社の株式の帰属について争われたが、現経営陣による株式の保有が認められた事例
法人

 ある法人(依頼者)では、創業者(前代表取締役)から、現在の経営陣に対して、株式の生前譲渡があり、事業承継がされていました。
 しかしながら、創業者の死後、創業者の相続人(相手方)が、「現経営陣への株式譲渡は存在せず、相続人こそが株主である」と主張しました。そして、相手方は、法人(依頼者)に対して、自身が株主の地位を有することの確認を求める訴訟を提起しました。

弁護士の活動
主張の基本方針の策定・証拠の収集

 本件では主に、
・創業者から現経営陣への株式の譲渡の存在について
(※以下、「本件譲渡」といいます。)
・依頼者法人が、非公開会社であったことから、株式の譲渡について株主総会決議がなされたのか
が問題となりました。
 
 本件の特徴として、

① 創業者は病気により心身が衰弱していたため、株式の譲渡は口頭により契約が締結されていたこと
② 創業者の死後、依頼者である法人の関係者(相手方も含む)が、司法書士の指導のもと、株式譲渡に関する書面を作成していたこと
③ 現経営陣が、法人の保証債務についても創業者から承継していたことという事情がありました。
 このような事情から当方は、創業者が株式の譲渡に至った経緯を、時系列に則り丁寧に主張しました。具体的には、「創業者は、現経営陣と入社当時から良好な関係を築いており、現経営陣を非常に信用していたこと」・「創業者の相続人(相手方)に、法人の保証債務を引き継がせないために、現経営陣に株式の譲渡をすること決断していたこと」を主張するとともに、株式の譲渡の価格についての裏付資料の提出を行いました。
また、創業者の死後ではあるものの、司法書士が関与して各種書面が作成され、その手続きに相手方も関与していることは、本件譲渡を認めていたということであると指摘しました。さらに、現経営陣は創業者の親族等ではないため、法人の保証債務を引き継ぐにも関わらず、株式の承継は受けないといった、不自然なことをするはずがないと主張しました。




相手方主張への反論
 

 相手方は本件譲渡について、「譲渡の書面が作成されたのは、創業者の生前でなかったこと」「株式の譲渡価格が不自然であることから、本件譲渡が存在しないこと」を主張しました。
 当方は、これに対して、「依頼者の法人は、小規模閉鎖的な会社であり、また、創業者の相続人である相手方も本件譲渡に同意をしていたことから、現経営陣は争いになるなど考えておらず、書面を作成しなかったとしても不自然ではないこと」また、「創業者の死後ではあるものの、司法書士の指導のもと相手方も関与したうえで、書面を作成していたこと」を主張・立証しました。

 また、株式の評価については、税理士・公認会計士とも連携し、当時の財務状況に照らした株式の評価額を算定して、本件譲渡の際の株式の評価が合理的なものであることを立証しました。  



裁判所での尋問

 本件は、当事者双方の主張の隔たりが大きかったことから、裁判所での尋問手続きに進みました。そこで、弊事務所の弁護士が、相手方である創業者の相続人に尋問をしたところ、相手方は、「創業者から、全財産を相続する内容の遺言を生前に交付されていたこと」また、「創業者の死後に、依頼者である法人において、株式の譲渡に関する手続きを行い、関連する資料を受領していたこと」などを述べました。
 このような事実が尋問で明らかになったことから、当方は、相手方に対し、本件譲渡があったことを認識していたのではないかと指摘しました。
 これらの活動が功を奏し、第1審において、法人の当時の情勢に照らして本件譲渡がされた経緯は自然かつ合理的であり、本件譲渡は存在するという認定がされ、相手方の請求は棄却されました。




控訴審での手続き

 第1審では、当方に有利な内容の判決が出ましたが、相手方はこれに対して不服があるとして、控訴しました。
 控訴審においては、第1審の判決が維持される方向となりました。一方、当事者双方による和解ができないか検討をすることとなりました。
 
 本件の争点については、妥協の余地はないため、和解は難しいところでした。しかし、本件訴訟の対象となっている株式の他には、相手方は少数ではあるものの、依頼者である法人の株式を保有していました。今後、相手方に株式を保有し続けられると、次なる紛争が生じるリスクがあることから、依頼者としても、相手方の有する株式を買い取りたいとの要望がありました。そこで、本件の裁判の中で、相手方の有する株式の買い取りを含めた和解の話を進めることになりました。
 非公開株式においては、株式の評価を算出することは容易ではなく、どのような金額で買い取りを進めるかの判断は、簡単ではありません。時間的な制約もあるなかで、公認会計士とも連携し、依頼者の株式の評価額を算出し、今後株式の買い取りを別の手続で進めた場合の費用・時間や、今後株価が上昇する可能性なども考慮して検討を重ね、交渉していきました。

 

結果
 

 株式の譲渡は有効であることを前提に、現経営陣が株式を有しているとみなされることが和解のなかで確認されました。また、相手方が保有する株式の買い取りについては、相手方の提示額の半額程度の金額で買い取りをすることが出来ました。

 

 本件では、創業者から現経営陣への株式譲渡の存否が問題となっていました。もし仮に、株式譲渡の存在が否定されるとなると、法人の所有関係が根本からひっくり返ってしまうことから、なんとしても本件譲渡が有効であるとの結論を得る必要がありました。
 小職は、依頼者法人とも連携し、本件譲渡にいたる経緯と、本件譲渡時の具体的なやり取りをしっかり整理して主張することで、譲渡が有効に存在していたことを裁判所にアピールしました。また、相手方の主張の矛盾点を指摘することで、本件譲渡が存在しないとして相手方が述べるストーリーが、不自然であることに気付き、反射的に本件譲渡が存在していたことを裏付けました。
 
 中小かつ閉鎖的な会社においては、関係者全員の気心が知れていることから、書面などの客観的な資料を作成されないことや、またはその資料の内容が曖昧不明確なことがあります。また、相続をきっかけとする紛争は、経営者が死亡するなどで急に発生することも多いため、充分な準備ができていないこともあります。このような場合でも諦めることなく、丁寧に事実関係を整理し、存在する証拠から、合理的に推認できる事実を主張することで、実態にあった結論を導くことができた事案といえます。
 このような弁護活動が功を奏し、株式の譲渡に関しては、当方の主張が全て認められる結論となりました。
 
 また本件では、相手方が有していた、依頼者法人の株式についても、適切な金額で買い取ることができ、将来を見据えた一体的な解決も出来ました。仮に、相手方の有する株式を買い取ることができなかった場合は、さらに別の裁判等で、株式の価額を決める手続きに進まなければならない可能性がありました。その際は、株式の鑑定手続きなどの多大な費用がかかることが予想され、さらに長い期間に渡って紛争が継続するなど、当事者双方にとって大きな負担になることが予想されました。
 今回は、絶対に譲れないとされる、創業者から現経営陣への株式の譲渡については、当方の主張が完全に認められ、かつ相手方の有する株式の買い取りについては、当事者双方が費用軽減・早期解決といった利益を享受できる理想的な和解を成立させることができました。

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