事例紹介

【法人・事業主のお客様】労働問題・労務管理

会社の法人クレジットカードを不正に利用した元役員に対して、損害賠償請求をし、早期に、引き落とし額の3分の2程度を回収する内容の和解を成立させた事例
法人

 依頼者である法人では、創業経営者兼代表者の親族が、実質的には法人の業務を行っていない名目的な役員に就任していました。そして、当該役員に法人クレジットカードを交付していましたしかしながら、創業経営者の死後、クレジットカードを交付していた役員が、法人カードを私的利用していることが発覚したことから、私的利用したカードについて損害賠償請求をすることになりました。

弁護士の活動
主張の基本方針の策定・証拠の収集

​ 法人クレジットカードの名義人は、法人の業務にかかる経費について、カードを利用することは許可されていますが、業務と関係のない私的な利用は許可されておりません。
 そのため、まずは被告が使った法人カードの明細を取得し、精査しました。相手方となる役員は、法人クレジットカードを使用し、ギフトカードの購入、タクシーチケット代、航空券・特急券などの交通費、宿泊施設・レストランの代金の支払い等にあてていたため、この点を証拠によって立証しました。
 そして、相手方に、法人クレジットカードの使用が、どのように業務執行と関係があり、どういった経費となるのか、納得のいく説明をするように求めました。




相手方主張への反論
 

 本件では、相手方が使った法人クレジットカードが、経費として認められるか否かが争点になりました。相手方は、自身がカードを使っていた当時の、創業経営者の存命中の期間に、「入院中の創業経営者に面会し、必要に応じて業務連絡をするために交通費として利用した。」などと説明しました。また、相手方は、一部の法人クレジットカードの使用については、「分からない。」などと主張しました。
 当方はこれに対して、相手方は名目的な取締役であるが、相手方が主張する業務連絡について、相手方から法人への報告がないことから、相手方が親族として訪問しただけであり、業務執行のためとはいえないと反論をしました。また、自身のカードの利用内容を説明できないならば経費としては認められないという当然の指摘をしました。
 また、航空券や特急券については、時期、行き先などが明らかになる資料を収集して特定し、役員としての業務執行については関係がないことを明らかにして、経費であることを否定しました。このような当方の指摘を受けて相手方は、遠方への交通費の利用については経費でないことを認めました。


原則に則った主張

 裁判所は、早期に和解を成立させるため、ざっくりと、『当方の請求額の半分の額を支払うもの』とする内容の和解を勧告いたしました。
しかし、そもそも、法人クレジットカードは、法人の業務に関係する経費についてのみ利用することが許されているため、法人カードを利用した者は、経費として支出したことを申告し、その必要性・相当性を明らかにするべきものです。
 裁判所の提案は、このような原則に則って考えられたものとはいえないことを指摘し、当方から和解の代替案を提案しました。


 

結果
 

 相手方の引き落とし額について、当方が請求をした3分の2程度を支払う内容とする和解が成立しました。

 

 本件では、元役員が法人のクレジットカードを私的利用した事案であり、その使用が経費として認められるかという内容でした。
 相手方の私的利用は、創業経営者の死後に発覚したこともあり、カードの使用から時間が経っていたため、客観的な資料の収集が困難でした。そのため、依頼者とも共同して、相手方が行っていた業務の内容、カードで利用した航空券の行き先などを特定して、相手方の業務執行のためにカードを使ったとは考えられないことを裏付けました。
 法人クレジットカードの不正利用を理由とする損害賠償請求に関しては、請求する側において、相手方が不正利用をしたこと、それによって損害を被ったことを立証する必要があります。したがって、相手方にシラを切られた場合には、どこまで立証することができるかという問題が残ります。
この問題に対して本件では、
 ①法人クレジットカードは原則として、法人の業務に関係する経費についてのみ利用することが許されているため、カードを利用した者が経費として支出したことを申告すべきであること
 ②その必要性・相当性を明らかにするべきであること
を主張し、相手方において経費であることを立証する責任があると指摘しました。
 このような弁護活動が功を奏し、当初裁判所が提案をした和解案から30%増額する内容で和解をすることができました。
 本件のように、中小企業においては、経営者やその親族などが、法人の財産と個人の財産とを混同してしまっているようなケースもあります。
しかしながら、法人の財産と個人の財産は厳密に峻別されるべきです。元経営者の親族などが法人のクレジットカードを私的利用している場合には、その利用の態様によっては、法人が、当該役員に対し、損害賠償を請求できる場合があります。
 本件でも、相手方が利用した法人クレジットカードの内容を分析して主張・立証することで、私的利用の事実があったことをある程度証明することに成功しました。その結果、当方に有利な和解によって解決できた事案でした。また、相手方は、元々は創業経営者の親族であり、一時は法人とも良好な関係を築いていたことから、早期和解を成立させることで決定的な感情の対立を回避することができました。

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