事例紹介

【法人・事業主のお客様】不動産・建築問題

マンションの建築計画をしていたところ,ソーラーパネルの発電量が減少するとして,「建築工事禁止仮処分の申立て」をされたが,退けることができた事例
法人

 依頼者は、マンションを建設・販売をすることを業としているマンションデベロッパーであり、近隣商業地域にマンションを建設していました。そうしたところ,マンション建設地の近隣住民らから,太陽光発電による売電収入の減少を理由に,依頼者に対して,建物の建築をしてはならないとの決定を求める「建築工事禁止仮処分命令の申立て」がされました。

弁護士の活動
主張の基本方針の策定と証拠の収集

​ 建物の建築によって第三者の日照権等を侵害する場合に,常に不法行為責任が生じたり,建物の建築差し止めが認められるわけではありません。社会においては,自身の権利に基づく土地利用の過程で,一定程度の権利の侵害はどうしても生じてしまうため,お互いに受忍していくことが必要です。そこで,社会的受忍の限度を超えるような権利の侵害のみが,違法なものとして,建築差止請求や損害賠償請求ができるとされています。
 そして,受忍限度を超える侵害であるかどうかを判定するにあたり,

  ① 日影規制違反などの公法規制違反の有無
  ② 被害の程度
  ③ 問題となっている土地周辺一帯の地域性
  ④ 建物の設計変更による加害回避の可能性
  ⑤ 建物建築を巡る交渉経過等の諸事情      等
  
を総合的に考慮して判断することになります。
 つまり,開発が進んでいる地域ほど,土地の高度利用の需要が大きく,仮に日照権等の侵害の程度が大きくなったとしても,受忍限度の範囲内である(=違法ではない)と認定される可能性が高くなります。
 そこでまずは,前記のような,考慮するべき事項を立証するための資料を収集しました。具体的には,建物の建築をしている地域の人口動態や,その地域の都市計画,また,不動産の需給動向などをまとめた市場調査のデータを収集しました。
 また,建物の建築によって日影ができたことによる,売電収入減少が争点になっておりました。そのため,建築士とも連携し,日影図(計画された建築物が、日差しによって測定面に作り出す時刻ごとの,影の形状を描き表した図です。)を作成してもらい,春夏秋冬における相手方の日照時間を立証しました。その結果,相手方のマンションの形状から,依頼者の建物がなくても元々影になりやすい物件であることが立証できました。さらに,相手方の隣接地には、依頼者が建物の建築計画を立てる前からすでに建物が立っていたため,相手方の建物の日照は,そもそも十分確保されていなかったことを裏付ける図面を作成し,裁判所へ提出しました。
 そして本件では,裁判に至る前に,相手方から建築差止や建築計画の変更の要望を受けていました。裁判においては,近隣関係住民との交渉の経緯も考慮要素になるため,依頼者が近隣住民に説明会を行っていたことを証する説明書を,証拠として裁判所へ提出しました。本件においては,紛争になる前の段階から,小職らは依頼者に対し,「近隣住民に対する説明会を開催したうえで,建築計画書の写しを渡すなど十分な説明をするように」と,アドバイスをし,依頼者もこれに基づいた対応をしていました。そのため,いざ裁判になった際も,適切な事前交渉をしていたことを立証することができました。



売電収入減少シミュレーション(相手方提出の証拠)への反論
 

 本件では,建物の建築による売電収入の減少も争点になりました。相手方は,建物の建築によって減少する,売電収入のシミュレーションを証拠とし提出しました。しかしこちらも専門業者と連携し,そのシミュレーションが,太陽光発電設備の経年劣化を考慮していないことを指摘しました。通常,発電設備に関して,メーカーは出力保証サービスを提供します。そして,このような保証内容を記載した書面には,当該発電設備の経年劣化により,発電量が減少することについての内容が記載されているはずです。相手方の主張では,当然考慮されるべきである経年劣化の点が考慮されていなかったため,その金額が妥当でないことなどを指摘し,相手方の主張が相当でないことを主張しました。

裁判例の分析・的確な主張

 受光利益(太陽光を享受する利益)を違法に侵害するものとして,不法行為と認められるかどうかについて述べた裁判例があります。
 具体的には,建築行為の前後で年間の総発電量が45.5%,売電代金で45.3%減少した事案であったものの,請求が棄却された事件でした。
棄却された理由としては,
 ・屋根部分に太陽光パネルを設置したのは侵害されたと主張する者自身であること
 ・自身で設置した太陽光パネルは地上から2.5メートル以下の高さにあり,他の建物が建築されれば受光が妨げられる可能性は十分想定される位置であったにも関わらず,その高さに設置したこと
 ・住宅地であったため,そもそも他の住宅が建築される可能性は十分に想定し得るものであること 等でした。
 本件は,上記の裁判例と事案の類似性があったため,裁判例を引用し,本件の建築による売電収入減少が違法なものではないことを主張しました。
具体的には,
 ・依頼者の建築したマンションは,法令による規制を遵守していること
 ・相手方の主張を前提にして,裁判例と比較しても,売電代金の減少率が大きくないこと
 ・2階建ての建物に太陽光発電設備を設置したのは、相手方自身であること
 ・建築が問題となった地域について高層化が進んでいること
を指摘し,2階という低い位置に太陽光発電設備を設置している以上,相手方は受光が妨げられる可能性は十分想定できたことを主張しました。

 

結果
 

 本件では,相手方が仮処分を取り下げ,依頼者は無事建物の建築を進めることができました。

 

 本件での相手方の主張は、依頼者による建物の建築で、相手方の日照権や,将来の売電収入を得る利益を侵害するというものでした。しかし,受光利益(太陽光を享受する利益)の侵害が違法となるかどうかは,

  ① 受光を妨げる建物が建築された所在地の利用用途
  ② 周辺の地域性
  ③ 侵害される受光利益の程度
  ④ 侵害に至る経過等を総合的に考察し,侵害された受光利益と,建物を建築 
   する利益との比較考量

により判断することとされています。

 特に,建物が法令による規制に違反をしていないか,また,太陽光発電設備による発電量を著しく減少するといえるのかという点が問題となってきます。
 このような判断の枠組みにのっとり,相手方の建物が,もともと影になりやすい建物であったことなどを,建築士が作成した図面で立証することで「相手方が侵害されている受光利益の程度が,著しく大きいとはいえない」という心証を裁判所へ形成することができました。
 また,本件の係争地は商業的に発展をしている地域にあること,相手方自身がそもそも2階と低層部分に太陽光発電設備を設置している以上,日照が阻害される可能性を十分認識できたはずであるため,社会的受忍の限度を超えるような権利の侵害ではないことを裁判所に訴えることができました。
 このように適切な証拠収集を行い、裁判例を意識した説得的な主張をすることで,最終的に相手方は,自身の主張が裁判所に認められることは難しいと判断し,仮処分の申立てを取り下げるに至りました。
 近年では、一般家庭において太陽光発電設備を設けている家が増えています。そのような住居の近くに、高層建物を建築することで,売電収入を減少させるものとして,損害賠償請求をされる可能性があります。その際は,法令による規制を遵守していることが何より重要になってきます。隣家の太陽光発電設備に日陰を生じさせてしまうような場合には,関係する法令違反がないよう注意が必要です。
 また,建築前に,近隣住民へ適切な説明をしていたかなども重要な判断要素となります。不当な要求には断固拒否するべきですが,建物建築後も近隣住民とマンションの購入者との間では長期的に関係が続く以上,周辺住民との良好な関係を築くことも重要といえるでしょう。

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