事例紹介

【法人・事業主のお客様】不動産・建築問題

管理組合から建築請負契約の債務不履行責任等を追求されたが、大きく減額できた事案
法人

 依頼者は、工事業者であり、相手方はマンションの管理組合法人でした。依頼者は相手方である管理組合法人と、手摺補修工事等の請負契約を締結しておりました。
 本件で相手方(管理組合法人)は、現実には実施していない建築請負工事について過大請求をしたとして、依頼者(工事業者)に対し、損害賠償請求の訴訟を提起していました。また、当該訴訟では、前記の請求に加えて、工事中に依頼者(工事業者)がベランダに設置されている隔壁板を破損したことについての損害賠償請求、さらには依頼者(工事業者)が工事をした部分に不具合が生じたことを原因とする、補修工事相当損害金を求める請求がなされていました。

弁護士の活動
過大な請求をしたことへの損害賠償請求について

 本件では、契約書と一体となっている見積書に、工事内容の明細が記載されていました。ただし、実際の工事の内容は、契約後に依頼者がマンションの現地調査を行い、この調査結果に基づいて、工事内容を確定するという契約となっていました。
 しかしながら、相手方が管理する建物は、大型マンションであり居住者も多かったため、補修するべき箇所の調査について、住民の半分程度しか協力を得られず、全戸調査をすることが現実的には困難でした。そのため、相手方である管理組合法人の当時の部会長と、依頼者である業者の担当者との間で、工事に着工したうえで、工事終了後に増減精算する旨の合意を行っていました。当方は、その事実を裏付けるために、契約書に合綴された見積書に「実数精算」と記載されている事実を指摘しました。
 また、契約書添付の見積書に計上されていた、工事内容の一部について、現地調査の結果、工事不要と判断し、現実には実施していないものがありました。そのため相手方は、工事を行っていないのに、依頼者(工事業者)が実際に請求した金額が、同工事を行うことを前提として作成された見積書の金額と同じであることが、過大請求であると主張していました。
 この点については前記のとおり、現地調査の結果、実施不要と判断される工事があった一方で、他に多数のヒビ割れがあったため、追加の補修工事が必要であったこと、その結果、当初の見積金額を超えていたため、むしろ依頼者が見積書の金額に合わせるために減額をしていることを主張しました。

 また、相手方は、現実に行った工事箇所を確認できる資料を要求し、依頼者が過大請求を行ったことをさらに追及しようとしました。しかしこの点については、依頼者は、詳細な工事の報告書の作成費用をいただいていないことを理由として、報告書を詳細には作成していなかったため、ざっくりとした手書きの資料しか存在せず、工事箇所数を証明するためには充分な資料がありませんでした。
 そこで本件では、相手方が、補修工事代金を請求するための証拠として、工事箇所に毀損が生じたことを裏付ける写真を提出していたため、それらを一つ一つ確認し、依頼者が行った工事箇所数について主張をしました。また、相手方である管理組合法人の前部会長(工事当時の部会長)と、依頼者である業者の担当者において、当初の契約書どおりの金額で支払うといった内容のやり取りをしているメールがあったため、これを証拠として提出しました。
 その結果、手書きの工事報告書と概ね一致した数字となり、裁判所も過大請求を行ったとはいえないのではないかという心証を形成するに至りました。



隔壁板を破損したことへの損害賠償請求について
 

 全ての工事箇所ではないものの、依頼者は、工事着手時には既に破損していた隔壁板の写真を取っていたため、この写真を証拠として提出しました。また相手方は、隔壁板損傷に関するアンケートについて、証拠として提出していましたが、アンケート収集の際にどのような質問をしたのか、また、依頼者の工事着手の前後いずれに損傷が生じたのかが不明であり、依頼者に責任があるとするには、根拠に乏しいこと等を指摘しました。


依頼者が工事をした部分に不具合が生じたことを原因とする、補修工事相当の損害金請求について

 依頼者が実施した工事箇所の一部について、ひび割れ等の不具合が生じていることは事実でした。そこでこの点については、依頼者において補修工事をする用意をしていることを、訴訟の初期段階から表明しました。


 

結果
 

 本件では、補修が必要な箇所については工事代金相当額、また、それらに少々の解決金を加算した金額で和解することができ、当初の請求額の3分の1程度の金額を支払うことで解決できました。

 

 本件では、相手方の主張では、依頼者(工事業者)が過大請求をしたとのことでしたが、この点を明確に反論する客観的資料が乏しい事件でした。しかしながら、契約書を分析することで、「実数精算」との記載により合意があったことについて主張し、証拠が乏しい中、現実にマンションの工事を行った事実を丁寧に主張しました。
 その結果、過大請求をしていないことを前提に和解を進めることができ、当初から支払うことを認めていた補修工事相当の金額に、プラスアルファを支払う内容で和解をすることができました。この点、依頼者に責任がある部分については早期に認めたことが、感情的対立を回避でき、円滑な和解に繋がったといえるでしょう。
 建築請負契約においては、現場のやり取りによって、当初の契約内容から変更が生じることも多いため、その変更の内容や現場の担当者、管理組合の理事長との合意内容がなんら文書になっていないことが多々あります。また、管理組合の理事長の、任期が満了するなどしている場合には、訴訟等になったときに事情を聞くことができないこともあります。
 このような場合であっても、なんとか当時の資料を収集し、パズルのピースを埋めていくように事実を明らかにしていくことで、主張が認められることがあります。本件も、断片的な資料を繋ぎ合わせることで、依頼者にとって有利な内容の和解を締結することができた事案でした。
 また、このような紛争にならないようにするためには、日常の事業活動においても弁護士に相談・依頼をすることで、重要な合意の内容を書面化するなどして、紛争を予防することが出来ます。本件では、全戸調査を行わずに「実数精算」によることについての合意書面、また、管理組合法人の当時の部会長との間で、最終の支払いを受ける際に、相互に債権債務のないことについての確認書などを作成しておくことで、紛争を未然に防止することができたといえるでしょう。

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