2023/01/13 『I・Bまちづくりvol.55』に岡本成史弁護士執筆の「時間外労働の割増賃金率の引き上げ」の記事が掲載されました。

 ㈱データ・マックス発刊の『I・Bまちづくりvol.55』の「建設・不動産業界 法律相談 弁護士が語る知っておきたいトラブル予防」のコーナーに,「時間外労働の割増賃金率の引き上げ」という記事が掲載されています。
  
    労働基準法では、法定労働時間を超える労働に対して、通常よりも割増した賃金を支払うことが義務付けられています。
 月60時間以下の法定時間外労働については、25%以上とされていますが、月60時間を超える時間外労働について、2010年4月から大企業は50%以上の割増率に引き上げられていました。ただし、この改正は大企業にのみ適用され、中小企業については、25%で据え置かれていました。
 しかし、23年4月1日から中小企業についても、月60時間超の時間外労働については50%以上の割増賃金率が適用されることになります。
 では、これに備えて中小企業としては、どのような対応が必要でしょうか。
 まず第1に、労働時間管理の方法を再点検する必要があります。そもそも労働時間を適切に管理していないと、正しい割増賃金を算出することはできませんので、現状でも当然対応しておかないといけない事項ではあります。厚労省のガイドラインでは、「使用者が自ら視認すること」や「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎」として確認することが、「原則的な方法」とされています。最近は、安価に勤怠管理システムを導入でき、給与計算ソフトと連携して、給与計算も自動化できるものもありますので、これらのシステムの導入を検討されても良いでしょう。
 次に、割増率の引き上げで、長時間の残業による給与負担が大きくなりますので、業務効率化への取り組みが必要になります。また、長時間労働は労働者の健康を損なうことにもなりかねませんので、無駄な作業を減らし、無駄な残業が発生していないか検討、是正するという業務効率化への取り組みも必要です。
    さらに「代替休暇制度」の導入を検討することも可能です。「代替休暇制度」とは、月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の支払の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができる制度です。事業者側にとっては残業代の負担を抑えることにつながり、労働者にとっては健康を維持しやすくなるメリットがあります。ただし、この制度を導入するためには、労使協定を締結する必要がありますので、その準備が必要です。また、そもそも長時間労働が発生しているような中小企業では、人的資源が不足しているのが現状であり、そのようななかで、該当労働者に代替休暇を付与することが現実に可能なのかという問題もあります。従って、導入するか否かは、慎重に検討が必要です。
 また、就業規則(賃金規程)の変更が必要になる可能性も高いでしょう。「モデル就業規則」の規定なども参考にしてください。
 以上のような勤怠管理システムの導入や就業規則の改正にあたっては、働き方改革推進支援助成金や業務改善助成金の対象になることもありますので、助成金などを活用して、必要な対応を進めていかれると良いでしょう。
 
 
 『I・Bまちづくり』は,九州の建設・不動産業界に焦点を当てた情報誌であり,九州で注目の再開発や熊本の復興状況、地方の魅力あるエリア、注目サービスや注目企業を取り上げています。
 なお,執筆した記事の内容は㈱データ・マックスのサイトにも掲載されています。
   https://www.data-max.co.jp/article/61419
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