2022/01/15 『I・Bまちづくりvol.43』に岡本成史弁護士の執筆記事が掲載されました。

 ㈱データ・マックス発刊の『I・Bまちづくりvol.43』の「建設・不動産業界 法律相談 弁護士が語る知っておきたいトラブル予防」のコーナーに,「不動産取引における自死・他殺等の告知義務」という記事が掲載されています。
 

    不動産取引の対象である物件において、他殺や自死、孤独死などが発生した場合、いわゆる「事故物件」として扱われ、新たな借り手や買い手が付きづらいのが現実です。ところが、これまでは告知義務などについての明確な基準がありませんでした。

 これまでも裁判例から抽出した基準はありましたが、取引目的や事案の内容、事案発生からの時間の経過、近隣住民の周知の程度などといった個別事情によって、判断にも一定の幅がありました。そのため宅建業者としては、取引について躊躇を覚えるところもあったようです。賃貸取引では、死亡事故が生じた場合に、すべて事故物件として扱われるのではないかという懸念から、単身高齢者の入居が困難となる弊害も発生しています。

 そこで国交省は、2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を公表し、判断基準を明確化しました。なお、ガイドラインは居住用物件を対象とするものであり、オフィスなどは対象外です。

 ガイドラインでは、次の①~③については告知義務がないが、それ以外の場合で「取引の相手方等の判断に重要な影響をおよぼすと考えられる場合」には、告知する義務があるとしています。

 ① 賃貸借および売買において、自然死(老衰、持病による病死など)または日常生活のなかでの不慮の死(入浴中の溺死、階段からの転落、転倒事故、誤嚥など)が発生した場合には告知義務はない。

 ② 賃貸借取引において、①以外の死(他殺や自死等)が発生した場合や①の場合でも、死亡後長期間放置されたことなどにともない特殊清掃などが行われることになった場合は、告知義務はあるものの、死が発覚して、その後概ね3年が経過した場合には、告知義務はない。

 ③ 賃貸借および売買において、対象不動産の隣接住戸や日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分において、自死、他殺、特殊清掃などが行われた場合についても告知義務はない。

 ただし、②③の場合でも、事件性や周知性、社会に与えた影響などがとくに高い事案は、告知義務があるとされています。また、人の死の発覚から経過した期間や死因にかかわらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合などは、告げる必要があるともされています。

 このように、一定程度基準が明確化されましたが、ガイドラインに基づき対応すれば、必ず民事上の責任を回避できるというものではありません。また、自死・他殺などが発生した建物が取り壊された場合の土地取引や、搬送先の病院で死亡した場合、転落死における落下開始地点の取り扱いなどは、裁判例なども少なく、ガイドラインの対象としていません。
 

 『I・Bまちづくり』は,九州の建設・不動産業界に焦点を当てた情報誌であり,九州で注目の再開発や熊本の復興状況、地方の魅力あるエリア、注目サービスや注目企業を取り上げています。
 
 なお,執筆した記事の内容は㈱データ・マックスのサイトにも掲載されています。
   https://www.data-max.co.jp/article/45043
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