【法人・事業主のお客様】企業法務(ガバナンス)
- 名誉毀損をしたとして訴訟提起されたが、請求を大幅に減額できた事例
依頼者は、インターネット上でニュース記事を掲載している法人であり、ある企業のトラブルに関する一連の経緯について、記事を掲載していました。当該記事には、相手方の法人が様々な企業とトラブルになり、結果として裁判になっていること、また、その裁判の結果などが記載されていました。相手方(ニュース記事に掲載された法人)は、依頼者の書いた記事に誤りがあり、名誉を毀損されたとして、依頼者に対して損害賠償の支払いを求めて、訴訟を提起していました。
弁護士の活動
【相手方の主張の分析】
名誉毀損の裁判では、名誉毀損であるとされている表現が、どのように相手方の社会的評価を低下させているのか、また、その表現が真実であるのかということが重要です。相手方(ニュース記事に掲載された法人)は、依頼者が掲載した記事について、争っている裁判の件数を間違って記載していることなどを指摘し、加えて、相手方(ニュース記事に掲載された法人)を貶めるような表現をしていると主張をしました。
ある表現によって、社会的評価が低下すれば、ただちにそれが名誉毀損として不法行為になるのではなく、社会的評価が低下した「程度」として一定のものが必要という見解が、実務上の見解となっています。すなわち、名誉毀損の成立要件としての「社会的評価の低下」があったと認められるためには、「損害賠償等による慰謝を要する程度」また、「相当と認められる限度を超えたものであること」を要します。
当方としては、まずは前記の原則を示したうえで、争っている裁判の件数を間違って記載していることなどの、細かい数字の違いは、損害賠償等による慰謝を要する程度とは言えないことを主張しました。また、依頼者(ニュース記事を掲載している法人)は、相手方(ニュース記事に掲載された法人)の名誉を毀損するような、直接的な表現をしないように注意を払っており、依頼者の表現では、「損害賠償等による慰謝を要する程度」「相当と認められる限度を超えたものであること」ではないことを主張しました。その主張に説得力をもたせるため、損害賠償請求が退けられた事件の記録(類似の裁判例)を引用して、相手方の請求が棄却されるべきであることを主張しました。
【事件記録の調査】
本件では、依頼者が過去の裁判の記録に基づいて記事を書いていたため、実際に行われた裁判で、相手方からどのような主張・立証等がなされたのかが問題となりました。依頼者は取材対象の裁判(相手方が過去に争っていた裁判)の当事者そのものではなかったので、裁判記録の謄写はできませんでした。そこで、弁護士が現地の裁判所に行き、記録を閲覧し、事件記録を検討しました。
このようにして、依頼者が書いていたニュース記事の内容が、真実であることが確認できましたので、記録提示申立という方法により、裁判所に記録の謄写を請求し、これらの記録を本件での証拠として提出することで、当方の主張の正当性を裏付けました。また、依頼者は記事を作成するに際して、相手方の関係者に取材をし、その取材について同意の上で録音をしておりました。この録音を反訳した書面を証拠として提出することで、依頼者が記載をした記事が真実であることの証明を行いました。
結果
本件では、ニュース記事の一部訂正と、当初の相手方からの請求額の、50分の1程度の金額を支払うことで解決できました。
本件での相手方(ニュース記事に掲載された法人)の主張は、依頼者(ニュース記事を掲載している法人)がインターネット上で、相手方である法人の名誉を毀損したというものでした。しかし、記事に記載された事実が相手方の名誉を侵害しているというのは、どのような根拠に基づいているのか、また、その侵害の程度はどの程度なのかを丁寧に分析して反論をしました。その際に類似の過去の裁判例を引用することで、こちらに有利な裁判所の心証を形成することができました。
① 公共の利害に関する事実について、また、表現行為は、
② 専ら公益を図る目的でされた場合は、
③ 摘示された事実が重要な部分について真実であると証明されたとき
に、その行為に違法性がなくなります。
本件では、数字の細かい点なども含めて、記事の誤っている部分を相手方から指摘されました。しかし、名誉毀損における『事実』とは、必ずしも細部にまでわたって証明することは要求されず、主要な部分または重要な部分についての証明をすることで足りますので、まずはこのような大前提から議論を進めました。相手方が主張していた、「記事の誤った部分」は、一般的読者から見たらどのように感じるのかを丁寧に論証し、その誤った部分が、それほど重要でないという印象を裁判所に与えることができました。
このように粘り強い証拠収集を行い、丁寧に主張を進めることで、相手方からの請求の大部分について、特段理由がないという心証を裁判所に形成させることができました。最終的には、依頼者が掲載していたニュース記事のうち、重要な誤りとまではいえないが、読者を誤認させるような記載については記事の訂正を行うこと、また、一部の解決金を支払うことで事件を解決することが出来ました。
近年では、どの法人においてもインターネット上で表現行為を行うことが増加しており、意図せず他人の名誉を毀損してしまう可能性があります。名誉毀損表現を行ったと裁判所に認定されると、損害賠償請求をされることに加えて、会社の信用を損なう可能性があります。名誉毀損表現であるとして、損害賠償請求をされた場合には、適切に反論することも大事ですが、そもそもどのような表現が名誉毀損に該当し、損害賠償による慰謝を要するのかを、法人の広報担当者などが理解をしておく必要があります。
また、もし逆に第三者により、名誉が毀損される表現がされた場合、表現を行った者に対して毅然とした態度を示し、名誉毀損表現の削除等の要請、加えて損害賠償請求を検討することになります。
当事務所では、名誉毀損をされた被害者の方や、名誉毀損についての請求をされているため防御したい方、また、名誉毀損について社内のコンプライアンスを図りたい方など、様々なお悩みに対応することができます。是非お気軽にご連絡ください。