2021/02/10 『I・Bまちづくりvol.32』に岡本成史弁護士の執筆記事が掲載されました。

 ㈱データ・マックス発刊の『I・Bまちづくりvol.32』の「建設・不動産業界 法律相談 弁護士が語る知っておきたいトラブル予防」のコーナーに,「やむなく人員削減せざるを得ない場合の注意点は?」という記事が掲載されています。
 

 雇用調整助成金などの政府の支援策を活用して、雇用の維持に努めてこられた事業者でも、事業の継続のために、雇用を維持し続けるのが厳しくなっておられる例があることから、残念ながら人員削減をせざるを得ない場合に注意すべき点について、解説しています。

 人員を削減せざるを得ない場合でも、労働者が納得のうえで退職できる道を探るのが望ましいでしょう。労働者に退職勧奨をしても、退職勧奨に応ずるか否かはあくまでも労働者の自由ですので、解雇をちらつかせて退職を強要したと評価されるなど、労働者の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法とされる可能性があります。しっかりと会社の厳しい経営状況について説明し、配置転換や減給などの方策について協議し、可能なら退職金の上乗せをして希望退職者を募るなど、労働者が損得を冷静に判断して納得のうえで退職に応じてくれるよう、誠実な手続きを尽くす努力が必要です。

 退職勧奨などだけでは、十分な人員削減を達成できない場合には、使用者による一方的な労働契約の解約である「解雇」を検討せざるを得ません。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とされます(労働契約法16条)。経営上の理由から余剰人員削減のためになされる解雇を「整理解雇」といいますが、「整理解雇」では、労働者側の事情による解雇ではありませんので、通常の解雇と比べてより厳しい制約があります。裁判例では、具体的に次の4要素(または4要件)を総合考慮して、解雇の有効性が判断されています。

 (1) 人員削減の必要性があるか
 (2) 解雇回避努力を尽くしたか
 (3) 人選の合理性
 (4) 解雇手続きの相当性

 (1)の人員削減の必要性は、新型コロナウイルスの影響による売上減少などから倒産の危機にあるなどの事実があれば認められ、裁判所もこの点は事業者の経営判断を尊重する傾向にあります。ただし、経営の客観的状況を正確に把握・分析したうえで、事業をどのように立て直すのか、そのためにどれだけの人員削減を必要と判断したのかなどの理由を説明できるようにしておく必要はあります。

 (2)の解雇回避努力とは、解雇は最終手段ですので、できる限り解雇を回避するための措置が尽くされているかが問題になります。経費削減、残業規制、減給、派遣など外部労働力の整理、希望退職者の募集など、企業規模や業種、人員構成や置かれた経済的状況などから、実現可能な措置を尽くしたのかということが問題となります。

 (3)の人選の合理性とは、解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であるかということです。

 最後に(4)の手続きの相当性として、対象労働者や労働組合との協議や説明が行われているかということが問題になります。解雇以前に、労働者が納得のうえで退職に応じてくれるよう、真摯に説明を尽くすべきと述べましたが、この点が解雇の有効性判断においても考慮されることになります。



 『I・Bまちづくり』は,九州の建設・不動産業界に焦点を当てた情報誌であり,九州で注目の再開発や熊本の復興状況、地方の魅力あるエリア、注目サービスや注目企業を取り上げています。
 
 なお,執筆した記事の内容は㈱データ・マックスのサイトにも掲載されています。
   https://www.data-max.co.jp/article/39991
pagetop